身内向け備忘録。「うなりに速度や波長はない」などという言説を見かけたので。


・唸る右手に鉄の竿

 下の図を見ていただきたい。

周波数\(f_1\)の音と\(f_2\)の音が合わさってうなりが生じている図である(赤線)。

 さて、この赤線、すなわち包絡線は、動くのか?数式で確かめてみよう。

・和積の公式は使わないと忘れる

 式を簡単にするため、波数 \(\displaystyle k\equiv\frac{2\pi}\lambda\), 角周波数 \(\omega\equiv 2\pi f\) とおくことにしよう。
 すると、2つの波はそれぞれ、\(\sin(k_1x+\omega_1t)\) および \(\sin(k_2x+\omega_2t)\) と書けるので、和積の公式より、2つの波の合成波は
$$2\sin\left(\frac{k_1+k_2}2x+\frac{\omega_1+\omega_2}2t\right)\cos\left(\frac{k_1-k_2}2x+\frac{\omega_1-\omega_2}2t\right)$$となる。\(\sin\) のほうが「実体」の波で、\(\cos\) のほうが「うなり」の方の(包絡線の)波だ。

 一般に、波の速度(位相速度) \(v\)には \(\displaystyle v=f\lambda=\frac\omega k\) の関係が成立するので、「実体」の波と「うなり」の波はそれぞれ
$$ v_{\mathrm s}=\frac{\omega_1+\omega_2}{k_1+k_2}$$ $$v_{\mathrm c}=\frac{\omega_1-\omega_2}{k_1-k_2}$$の速度を持つことになる。

・それ、消えます

 ところが、音速 \(V\) は周波数に関わらず一定であるとみなしてよいので、\(\displaystyle V=f\lambda=\frac\omega k\) すなわち \(\omega=Vk\) である (なお、後で触れるが、このように\(\omega\)が\(k\)と比例関係にあるとき、「分散がない」という)。したがって、
$$v_{\mathrm s}=\frac{\omega_1+\omega_2}{k_1+k_2}=\frac{V(k_1+k_2)}{k_1+k_2}=V$$
$$v_{\mathrm c}=\frac{\omega_1-\omega_2}{k_1-k_2}=\frac{V(k_1-k_2)}{k_1-k_2}=V$$
となって、どっちも音速 \(V\) で動くことが明らかになった。速度と周波数があるので、当然、波長もある。

・わざわざこんなことをしなくても

 とまあ、数式的に「うなりの波」が速度と波長をもつことが明らかになったわけだが、少し考えればこんなことは自明である。下の図を見てほしい。

 もし「うなりの波」が動かないとしたら、このように、「うなりの節」に立っている人間は、無音を観測し続けることになる。他の地点でも然りで、観測者が動かなければ、うならずに一定の振幅の音を観測することになるだろう。ウワンウワンとうなる音が聞こえるのは、「うなりの波」が動くから、に他ならない。

 「うなりに波長がない」などと宣う輩は、この図の赤線の波長を一体何だと思っているのだろうか?

・わざわざこんなことをしなくても②

 「群速度」という考え方がある。これは複数の波が重ねあわされた波束の全体が移動する速度のことで、これに対して、波動の位相 \(\phi=kx+\omega t\) が一定で伝わる速度を「位相速度」という(何の捻りもない命名だ)。
 さて、角周波数 \(\omega\) が波数 \(k\) の関数で表される、すなわち \(\omega =f(k)\) という関係を分散関係といい、とくに\(\omega=Vk\) という比例関係にあるとき、分散がないという。実は、群速度はこの分散関係によって定まって、$$v_{\mathrm g}=\frac{\mathrm d\omega}{\mathrm d k}$$であり、分散がないときは位相速度と群速度は一致する。音波には分散がないので、位相速度も群速度も \(V\) になるのは当然だということだ。
 なお、ご存知のとおり光は波長によってある媒質に対する屈折率が異なるので、分散現象が起きる。というか分散関係という語はこの分散現象に由来するのだとか。


 以上。たかがうなりだが、奥が深い。
 ちなみに、このうなりにおいて、直感的には周波数が高いほうの波が位相速度で動き、周波数が低いほうの波が群速度で動くと思ってしまうが、位相速度も群速度も同じなのでどっちをどっちと捉えても同じ結果になる。つまり周波数が高いほうの波もまた包絡線になっているのだ!?

 どうでもいいけど、うなりとうねりを間違える。

うなりの "波" は動くか?

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