コンデンサとトランジスタを使ったリレー遅延回路の定数決定について。数式多めにつき注意。スマホだと数式がはみ出すので、PCサイトモードで見ることをお勧めする。


 

・使いどころ

 今回は、電源投入から数秒後にリレーが作動し、電源を切った直後にリレーが切れるような回路について紹介する。
 例えば、デジタルアンプで電源投入時に入るポップノイズをなくすために、スピーカーが接続されるタイミングをずらすとか、そういった用途。
 

・回路図


 この回路の核をなすところは、コンデンサC、抵抗R1とR2、およびトランジスタTrである。R1、R2、Cの値を変えることでこの回路の遅延時間が変化する。ツェナーダイオードDz、ダイオードD2は遅延時間を稼ぐために入れる(必要なければ入れなくてもよい)。抵抗Re、ダイオードD1とD3は電源が切れた時に電荷を逃がすためのものなので遅延時間には影響しない。Reは小さいほど電源が切れた後にリレーが切れるのが早くなるが、あまり小さくしすぎると電力の無駄な消費が大きくなりすぎるので1kΩくらいが良いと思う。

・条件設定

 ここからは簡単な微分方程式を解いて定数を決定していく。数式なんか興味ないぜという人は後のほうまで飛ばしても良いが、かなり頑張ったので是非見てほしい(誤りがあれば指摘をお願いします)。
 では条件を設定していこう。
 上の図のように、ツェナーダイオードDzによって降圧された後の電位を\(V_{\rm in}\)とする。各素子にかかる電圧、電流は図の通りであるが、ダイオードD2とトランジスタTrにかかる電圧はまとめて\(V_{\rm T}\)とし、計算を簡単にするために電流―電圧特性は下の図のようになるものとする。

 すなわち、 \(V_{\rm T}<V_{\rm F}\)であるうちは電流は一切流れず、電流が流れ始めれば\(V_{\rm T}=V_{\rm F}\)で一定となる、と仮定する。
 また、電源投入から\(T\)秒後にベース電流\(i_2\)がある値\(I_{\rm B}\)になったときにリレーが作動し、十分時間がたって定常状態になったときのベース電流\(i_2\)は\(I_{\rm BF}\)であるとする。抵抗R1, R2の抵抗値をそれぞれ\(R, r\)とおく。なお\(\log\)は自然対数とする。

・Let's 演算 Time: 定常状態

 まずは計算が楽な定常状態から済ませてしまおう。
定常状態ではベース電流が\(I_{\rm BF}\)で、コンデンサは充電が終わっているので電流は流れない。したがって、
$$\begin{eqnarray*}V_{\rm in}&=&V_1+V_2+V_{\rm F}\\&=&(R+r)I_{\rm BF}+V_{\rm F}\end{eqnarray*}$$$$\Leftrightarrow R+r=\frac{V_{\rm in}-V_{\rm F}}{I_{\rm BF}}\qquad\cdots(1)$$となる。

・Let's 演算 Time: 過渡状態①

 次に、電源投入直後からトランジスタに電流が流れ始めるまで、すなわち\(V_{\rm T}\leq V_{\rm F}\)の間の状態について考える。電源投入した瞬間の時刻を\(t=0\)とする。

 この状態では、抵抗R2には電流は流れていないので、\(i_1=i_{\rm C}\)である。また、抵抗R1について、オームの法則より\(\displaystyle i_1=\frac{V_{\rm in}-V_{\rm C}}{R}\)であるから、コンデンサの電荷を\(Q\)とおくと$$\begin{eqnarray*}C\frac{{\rm d}V_{\rm C}}{{\rm d}t}&=&\frac{{\rm d}Q}{{\rm d}t}=i_{\rm C}\\&=&\frac{V_{\rm in}-V_{\rm C}}{R}\qquad\cdots(2)\end{eqnarray*}$$となる。ここで\(V_{\rm in}-V_{\rm C}=\alpha\)とおけば、\({\rm d}V_{\rm C}=-\rm d\alpha\)であるから、
$$\begin{align*}(2)&\Leftrightarrow\quad-C\frac{{\rm d}\alpha}{{\rm d}t}\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ \frac{\alpha}{R}\\
&\Leftrightarrow\quad\frac{{\rm d}\alpha}{\alpha}\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac{{\rm d}t}{CR}\\
&\Leftrightarrow\quad\int\frac{{\rm d}\alpha}{\alpha}\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac{1}{CR}\int {\rm d}t\\
&\Leftrightarrow\quad\log|\alpha|\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac t{CR}+D\quad(Dは積分定数)\end{align*}$$
である。\(\alpha>0\)であり、初期条件は\(t=0\)のとき\(\alpha=V_{\rm in}\)より\(D=\log V_{\rm in}\)と定まって、$$\log (V_{\rm in}-V_{\rm C})=-\frac t{CR}+\log V_{\rm in}$$が得られる。ここで、\(V_{\rm C}=V_{\rm F}\)となる時刻を\(T_1\)とおけば、$$T_1=-CR\log \left(1-\frac{V_{\rm F}}{V_{\rm in}}\right)\qquad\cdots(3)$$である。

・Let's 演算 Time: 過渡状態②

 最後に、トランジスタに電流が流れ始めてから定常状態までの、\(V_{\rm T}= V_{\rm F}\)である状態について考える。ここでは過渡状態①で\(V_{\rm T}= V_{\rm F}\)に到達した瞬間を\(t=0\)とする。
 抵抗R1、R2においてそれぞれオームの法則より、$$i_1=\frac{V_{\rm in}-V_{\rm C}}{R},\ i_2=\frac{V_{\rm C}-V_{\rm F}}{r}$$であるので、
$$\begin{eqnarray*}C\frac{{\rm d}V_{\rm C}}{{\rm d}t}&=&\frac{{\rm d}Q}{{\rm d}t}=i_{\rm C}=i_1-i_2\\
&=&\frac{V_{\rm in}-V_{\rm C}}{R}-\frac{V_{\rm C}-V_{\rm F}}{r}\\
&=&\frac{rV_{\rm in}+RV_{\rm F}-(R+r)V_{\rm C}}{Rr}\qquad\cdots(4)\end{eqnarray*}$$であるから、\(rV_{\rm in}+RV_{\rm F}-(R+r)V_{\rm C}=\beta\)とおくと、\(\displaystyle {\rm d}V_{\rm C}=-\frac{{\rm d}\beta}{R+r}\)より
$$\begin{align*}(4)&\Leftrightarrow\quad -\frac{C}{R+r}\frac{{\rm d}\beta}{{\rm d}t}\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ \frac{\beta}{Rr}\\
&\Leftrightarrow\quad\frac{{\rm d}\beta}{\beta}\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac{R+r}{CRr}{\rm d}t\\
&\Leftrightarrow\quad\int\frac{{\rm d}\beta}{\beta}\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac{R+r}{CRr}\int{\rm d}t\\
&\Leftrightarrow\quad\log|\beta|\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac{R+r}{CRr}t+E\quad(Eは積分定数)\end{align*}
$$
\(\beta>0\)であり、初期条件は\(t=0\)のとき\(\beta=r(V_{\rm in}-V_{\rm F})\)より\(E=\log \bigl(r(V_{\rm in}-V_{\rm F})\bigr)\)と定まって、$$\log \bigl(rV_{\rm in}+RV_{\rm F}-(R+r)V_{\rm C}\bigr)=-\frac{R+r}{CRr}t+\log \bigl(r(V_{\rm in}-V_{\rm F})\bigr)\qquad\cdots(5)$$
となる。ここで、\(\displaystyle i_2=\frac{V_{\rm C}-V_{\rm F}}{r}=I_{\rm B}\Leftrightarrow V_{\rm C}=rI_{\rm B}+V_{\rm F}\)となる時刻、すなわちリレーが作動する時刻\(T_2\)を求めると、
$$\begin{eqnarray*}
-\frac{R+r}{CRr}T_2+\log \bigl(r(V_{\rm in}-V_{\rm F})\bigr)&=&\log \bigl(rV_{\rm in}+RV_{\rm F}-(R+r)(rI_{\rm B}+V_{\rm F})\bigr)\\&=&\log\bigl(r(V_{\rm in}-V_{\rm F})-(R+r)rI_{\rm B}\bigr)\qquad\cdots(6)\end{eqnarray*}
$$ ここで、(1)より\(\displaystyle R+r=\frac{V_{\rm in}-V_{\rm F}}{I_{\rm BF}}\)を代入すると、

$$\begin{align*}
(6)&\Leftrightarrow \quad-\frac{R+r}{CRr}T_2\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ \log\left(r(V_{\rm in}-V_{\rm F})\left(1-\frac{I_{\rm B}}{I_{\rm BF}}\right)\right)-\log \bigl(r(V_{\rm in}-V_{\rm F})\bigr)\\
&\Leftrightarrow \quad -\frac{R+r}{CRr}T_2\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ \log\left(1-\frac{I_{\rm B}}{I_{\rm BF}}\right)\\
&\Leftrightarrow \quad T_2\!\!\!\!\!\!\!\!&=&\ -\frac{CRr}{R+r}\log\left(1-\frac{I_{\rm B}}{I_{\rm BF}}\right)\qquad\cdots(7)\end{align*}$$

・数値を代入

 ひどい計算だったが、(3)と(7)式より、電源投入からリレーが作動するまでの時間\(T\)は $$\displaystyle T=-CR\log \left(1-\frac{V_{\rm F}}{V_{\rm in}}\right)-\frac{CRr}{R+r}\log\left(1-\frac{I_{\rm B}}{I_{\rm BF}}\right)\qquad\cdots(8)$$であることが分かったので、あとは具体的に数値を代入すればよい。\(x=CR,\ y=Cr\)とおき、(1)式と(8)式を連立することで、\(x, y\)の値を定めることができる。ただ、実用的な範囲では\(C\)が小さいと感知できないレベルの遅延に留まるので、入手のしやすさも考えると\(C\)の値は\(1000\mathrm{\mu F}\)にするのが妥当だろう。また、\(V_{\rm in},\ V_{\rm F},\ I_{\rm B}\)の値は実際に使う部品で回路を組んで測定しておこう。特に\(I_{\rm B}\)は僅かに違うだけでもかなり時間差が出るのでできるだけ正確に測定したい。\(I_{\rm BF}\)は定常状態のベース電流値なのでさほど細かく気にする必要はないが、リレーの定格とトランジスタのhFE値を考慮して妥当な値に設定しておこう。\(V_{\rm F}\)はD2を入れるか入れないかや、ダイオードの種類によっても変わるのでこれもきちんと測定しておこう。D2を入れないなら0.7V、一般的なシリコンダイオードなら1.4Vくらいになるはずである。

 というわけで、実際にプロットしてみた。
例. \(V_{\rm in}=6.6\mathrm V,\ V_{\rm F}=0.7\mathrm V,\ I_{\rm B}=0.34\mathrm{mA},\ I_{\rm BF}=0.50\mathrm{mA},\ T=3.6\mathrm s\)
 交点は\((x,\ y)=(8.65,\ 3.15)\)とのこと。\(C=1000\mathrm{\mu F}\)なので、\(8.65\mathrm{k\Omega}と3.15\mathrm{k\Omega}\)の組を使えばよいということになる。
 ちなみに、\(T\)を大きくしていくと赤い曲線は上へと逃げていくので、遅延できる時間には限界があるのがわかる。

・実験

 ではこの数値の妥当性を検証していこう。ブレッドボードで実験回路を組んでみる(このためにわざわざ部品を買い出しに行った)。

 半固定抵抗の値を先ほど求めた値に合わせ、スイッチを入れてみる。

 概ね3.7秒でリレーが作動したので、ほぼ設計通りといえよう。誤差は4%くらい。

・計算用ツールもついでに

 実際に(1)式と(8)式を連立すると\(R\)ないし\(r\)についての二次方程式になるので、関数電卓があればまあ計算できないこともないのだが、ちょっと面倒なので計算用ツールを作ってみた。ここからどうぞ。上の例の値を入れてちゃんと同じ値が出るか確認してみよう。


 以上。かなり長い記事になってしまった。書き始めたのは1ヶ月半ほど前なのだが、実験しても結果が合わず非常に苦労した。結局、原因は常用対数と自然対数を取り違えるという初歩的なミスだったので情けない限りである。ともかくそこそこの精度の結果が出たので良かった。

リレー遅延回路の定数決定

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リレー遅延回路の定数決定” への5件のフィードバック

  1. 便利な物を有り難う御座います。しかし抵抗値の小数点の位置が異なるように思います。
    (私の所だけか??)
    それと桁数が多すぎるのでは、コンデンサーは抵抗と比べると誤差が大きいし、
    誤差の少ない物は高いので、抵抗値をそこまで厳密に求める必要が無いと思います。

    1. ご意見ありがとうございます。
      小数点のズレは入力された条件の単位の問題かもしれませんので、条件値をご確認ください。また、結果の単位はkΩで出るので、もしかしたら見間違っているかもしれません。
      結果の精度に関しては表示桁数を減らしてみます。

  2. Windows10のIEでは実行できないようですがやむを得ないのでしょうか。
    eggeでは問題ありません。

    1. 確認したところIEは対応していないようです。IEはもう事実上開発停止しているのでedgeに乗り換えたほうが良いと思います。

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